スタートから間もなく、早くも8耐の悪戯が現れた。なんと、優勝候補のヨシムラ、セブンスターホンダが、ヤマハのライダーがオープニングランの時、蒔き散らしたオイルでスケートリンクで転ぶような感覚で、転倒。ヨシムラのマシンは、炎上してしまった。序盤からの大波乱である。
レースは中止・再スタートとはならず、そのまま続行される。
気温はかなり高い。恐くて温度計を確認できない。ライダーの疲労も相当なものである。転倒車も普段より多い気がする。1回の走行で約1時間を走る。50歳を超えた水谷氏の走りは、暑さや疲労を感じさせない、気迫の隠った走りで周回を重ねて行く。
松本氏も、怪我なんてしていないというような走りで、淡々と周回を重ねて行く。
ピットクルーも、素早いピットワークで、ライダーをフォローする。今の所、マシンも好調を維持している。ライダーも気迫十分だ。
順位は、34位のポジションで中盤をむかえる。この先、トラブルでリタイヤするチームも予想される。昨年より、上位でチェッカーをむかえる事ができるかもしれない。
200周いけるかも知れない!という期待が湧き出てくる。しかし、8耐である。終わるまで何が起きるか判らない。
17時前、昨年の第3ライダーで、バイク雑誌のインプレッション等でお馴染みの、和歌山氏も応援に駆け付ける。ライダー交代を終えた松本氏に声をかけ、激励している。
もう少しでゴールが見えてくる。天候的にも雨の心配はない。マシンも元気だ。
夕暮れが近付いてくる。もうライダー交代も数える程しかない。このまま、無事に走り切って欲しい!とチームスタッフの皆は、ピット内のモニタを眺める。順位は上がって、30位以内に上がっている。コンスタントにタイムを刻んで行く。これが耐久レースの本来の走り方である。ベテランの2人のライダーは、この作業を延々と繰り返ししている。
ひとつ向こうのピットで、信じられない出来事が…。トップを走っていたケンツJトラストMOJO
スズキのマシンが、北川選手がライダー交代でピットに入り、藤原選手に交代しスタートの筈が、エンジンに火が入らない!
7時間を過ぎ、あと1時間。だれもが、ケンツの優勝を確信していたその時に、悪魔が微笑んだのである。
近年の8耐は、ホンダの連破で他メーカーの優勝は遠ざかっていた。
今年はスズキ勢のヨシムラ、ケンツの両チームが好調で、久し振りのホンダ以外の優勝。そして、遠い昔のヨシムラが優勝した時以来のプライベートチームの優勝が期待出来ていたのに。
スタート直後のヨシムラに続き、ケンツまでもが、悪魔の微笑みに導かれてしまった。
報道陣は、ケンツのピットに群がっている。凄い人数だ。ケンツのマシンは、なかなか息を吹き返さない。
その中、松本氏も最後のライダー交代のため
に、ピットへ戻ってくる。水谷氏が出迎える。
ビット作業中に、2人が労いの言葉を交わしているのであろうか?ヘルメット越しに、長い会話を交わしている。
ピット作業を行なうメカニックも細心の注意で、マシンを点検し、水谷氏へバトンタッチされる。そして、コースインする水谷氏。残り時間はあと僅か。
最後の仕事を終えた松本氏は、ピットクルーに労いと感謝の言葉を伝え控え室に入って行く。
後に残されたチームスタッフは、無事にチェッカー受け、完走できるよう。皆が緊張の趣でピット内のモニタを睨み続ける。
ボランティアで前日の身障者とタンデムで走ったパレード走行の手伝いを行なった、高校生たちも、2人の走る姿に触れ、少し大人になったようだ。
とにかく、もう、ゴールの時間になって欲しい。
ケンツのマシンは、なんとかギリギリでコースへ復帰。
そして、時間は8時間を終え、無事199周、24位でチェッカーを迎えた。
チームスタッフを交えた、感動のビールシャワ−。安堵と完走の喜びが皆の顔に浮ぶ。
そして、フィナーレの花火が鈴鹿の夜空に咲いた。
水谷氏、松本氏、そしてチームスタッフの皆様、熱い一日、御苦労さまでした。
|